注:今回は長文です。お時間のある方のみお読みください。
今回の金環日食(金環食という言い方が最近変わったようだ)、京都でも見られるが最高の状態を見たいと思い、学生時代からの友人らと紀伊半島に行ったのである。
観光をしながら天気予報を注視していたが、前日の日曜日、紀伊半島南部が雨予報に変わる。午後からは雨も降り出したので、他の候補地を検討した。この時点で日本の大半が雨や曇り予報で気象庁が推奨するのは長野県南部という。
やむなく紀伊勝浦を放棄し、長野県の飯田を目指し大移動を開始。途中、四日市で事故渋滞で1時間足止めを食う。そのときスマホやケータイで情報収集していた友人が岐阜県東濃地域が晴れに変わったといい、瑞浪市に予定地を変更。さらに愛知県が日本で唯一晴れそうという情報に接する。刻々と予報が変わり、しかも予報会社ごとに言うことが違う。
愛知県なら中心食帯からずれるので、少しでも南が良いだろうということで、急遽知多半島の南端に目的地を決めた。キャンプ装備は持っていたがメンバーが疲れたというのでホテルを探すが、日曜の夜なのにホテルはどこも満室。中部国際空港のホテルに空きを見つけ、つかの間の睡眠を取った。
朝5時にチェックアウトして、知多半島南端の羽豆岬に到着。観測の準備をする。続々と人が詰めかけ、百人を優に超えた。旗を持った団体までやってきてちょっとしたお祭り気分。周りのカメラマンと雑談も弾む。
空は徐々に晴れ上がり、期待に胸を膨らませたのである。
日食開始時刻になり、太陽が欠けだし、周囲でざわめきが起こる。日食フィルターの効果も上々で、刻々と太陽の形が変わる様を観測し、やがて訪れる金環日食を想像し、メンバーは皆ハイテンションになった。
ここで予期しない事態に。分厚い雲が東の空を覆い、一帯が暗くなる。全く太陽の位置も分からない。焦っても仕方がないと腹を決めて待つ。
金環日食の時刻が迫り、さらに周囲は暗くなり、寒さを感じ、鳥が飛び交う。絶望的な空気が漂い、諦めた人々が次々に帰っていく。
ツイッターからは「金環キター」「感動!」という書き込みが飛び交う。地元京都でも金環日食が観察されている。無駄な抵抗と思いつつ三脚をたたみ、日食フィルターを仕舞い、マニュアルモードで露出を設定し(3年前の雲越しの日食撮影の経験が活きた)、その時を待つ。
無情にも金環日食終了の時刻を迎える。ここまであがいてチップを張って、俺は賭けに負けたのか。敗北感が襲う。
その刹那、垂れ込めた雲の一カ所が光り出す。何とエアポケットのように太陽の周りの雲が薄くなり、金環が見える。周囲がワアー!と叫ぶ。たった数秒。夢中でシャッターを切る。
とっさの撮影だったが数枚、見事な写真が撮れた。僅かに左下が切れて金環ではない。だが、本当に涙が出るくらい感動した。
現地にいた人なら分かるがこれは奇跡である。あの分厚いどんよりとした雲から太陽が見えるなんてまず考えられない。気の毒なのは、一瞬のことなので撮影出来なかった人が多かったことだ。
結論から言えば全国の天気は愛知県南部の伊勢湾周辺以外ではまずまず良好だった。雨予報だった紀伊半島南部ですら観測されていた。結局、大外れの天気予報に振り回された格好になった。
観測終了後、友人らと反省会を行った。刻々と状況が変わり、情報の確度も不安定で正解がない中、都度ベターな判断はできていた。確かに小さな戦術では正しい選択をしたが結局、戦略的な観測地を誤ってしまった。
それでも、今回の金環日食は人生で忘れられない体験になった。最後まで諦めずに最善を尽くした結果、天が僅かに応えてくれた。高く設定したハードルをギリギリのラインでクリア出来た気持ちだ。
こういう、一種ばかばかしいことが共に出来る友人を持って幸せとも思った。
最後に思ったことを。日食が起きると動物が異常行動を起こすことは知られている。だが自らの体験で言えることは、最も異常行動を起こすのは間違いなく人間である。
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